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101  コンテストマッチ1

​(タケシvsユウタ)

金曜日の、夜6時45分。
俺は時計を確認しながら、道場の扉を開ける。
今日は仕事が押してしまっていたが、何とか間に合った。

すでに20人を超える選手達が試合場に集まり、大会の開始を待っている。
いつもなら10人いるかいないかの道場だが、試合の日は選手達が多く集まる。
試合会場の上には、ギャラリーが数十人集まって、試合の開始を待っている。今日もオーナーの吉岡はえびす顔でお金の計算をしているはずだ。

本来なら試合開始直前に会場入りするのがベストだが、俺の試合は第3試合。
前座を務めるフレッシュマン2組の試合の直後の試合だ。久しぶりだと、試合の順番も早くなってしまう。
フレッシュマン達なら、2連続秒殺KOも十分あり得る。そうなったら、すぐ俺たちの出番だ。

ロッカーを開け、いつも通りにカバンを押し込み、背広を脱いでハンガーに掛ける。
着ているものをすべてロッカーにしまい、カバンから赤いTシャツと黒い競パンを取り出して身につける。試合前の、かんたんなコスチュームだ。

俺だけではなく、ほとんどの選手は普通のリーマンだ。この道場のドアを開けるまで、通勤帰りのふつうの社会人の顔をして電車に乗り、何食わぬ顔をしてここまで歩いてきたに違いない。

アフター5にハッテン場のリングに上がり、決着がつくまで相手の竿をしゃぶり続ける。
相手がうまく自分の技にかかって、ザーメンを噴いてくれれば、まだいい。
試合中に対戦相手のうまい技にハマり、並み居る選手達が見ている中で足をばたつかせ、リング中央で豪快にイッてしまう可能性も、十分ある。

互いに、対戦相手の情報は、すでに頭に入っている。
オープンの大会とはいえ、狭い世界だ。たいていの選手は自分の対戦相手の顔も体も、竿の太さも強度も、技のクセも、十分に頭に入っている。
オーナーは、マッチメイクの名人だ。たいていの試合はねばりつくような接戦で、しかも壮絶なKO劇で幕を閉じる。
自分が対戦相手の公開処刑人になるのか、相手のフェラ技の犠牲になるのかは、試合開始のゴングを聞いてからでないと分からない。

中には、今日の仕事中、デスクワークの途中でテントを張ってしまい、立ち上がれずに困った選手もいたはずだ。
今は冬なので、ある程度背広で隠せるからまだいい。真夏のクールビズ真っ最中に試合を入れ、仕事中に立ち往生した経験は、俺にも何度かある。


 ふつうのスポーツの大会ならば、試合が始まる前にウォームアップで体を温めておくことが多いが、69レスリングとなるとそういうわけにもいかない。しごき合いで亀頭を慣らしておけば不意の昇天決着を避けられるが、この道場ではそれも禁止されている。
 馴れ合いを避けるため、対戦相手との会話もここでは禁止だ。

 若い選手になるとスマホのゲームに興じる者もいるが、たいていの選手は。対戦相手以外の選手との軽い会話で時間をつぶすことが多い。どちらにしてもこの試合場は、試合前の独特の緊張感に覆われている。


 着替えが終わって、俺が試合場を見回していると、今日の俺の対戦相手を見つけた。
 堀田だ。黄色の派手なプリントを施したTシャツに、黒の競パンを合わせている。・・・俺にしてみれば、因縁の、そして念願の対戦相手だ。
 
 堀田がここの選手になって、約1年になる。
 まだ経験のないアイツのデビュー戦の相手として、俺はこのリングに上がった。それが、堀田との最初の出会いだった。

 強い相手だってことは、オーナー達から聞いて知っていた。
 だから、俺も手を抜かなかった。
 にもかかわらず、その数分後にはヤツの必殺技をもろに食い、俺はみんなの前で頭を跳ね上げて大きくダウンした。
 レギュラーの意地でその場での放出は踏みとどまったが、その後の彼のフェラ技波状攻撃に最後は力尽き、試合開始10分足らずでザーメンを噴いて深々とマットに沈んでしまった。
 ・・・大番狂わせだった。フレッシュマン達は小躍りして喜び、レギュラーの男達は大きくざわついた。


 レギュラー選手がリングの上で醜態をさらすと、生意気なフレッシュマン達の対戦希望が集まる。
 たいていの選手はその場で返り討ちにしてやったが、堀田戦の敗北がしばらく尾を引いたこともあって調子が上がらず、恐れを知らない若いパワーの前に、力尽きてしまったことも何度かある。
 そういう選手はきまってマットの上でぽんぽん跳ねて喜び、慣れない足つきで俺の胸板をぐりぐり踏んで見せたものだ。


 あれから1年、俺も砂を噛む思いで練習を重ね、自分なりに腕を上げていった。
 俺をイカせて喜んでいた新レギュラーのガキ達にも挑戦して、リングの上でたっぷりレイプしてやった。
 リングの上で何度も寸止めを繰り返し、回復したと思ったらまた攻める。言葉責めでいたぶってやったら、奴らはリングの上で何度も悔しい顔をして、そのまま昇天でマットに散った。
 当時フレッシュマンだった奴らも、レギュラー選手になってずいぶんおとなしくなった。
 どんなガキでも、リングの上で現実を知れば、次第におとなしくなっていく。
 しかし、一人だけ再戦できていない男がいた。・・・それが、あの堀田なのだ。


 俺が再戦を避けていたわけではない。むしろ俺は、何度か堀田との再戦を持ちかけた。
 しかし、なぜか試合を組んでもらえなかった。
 噂では、俺が堀田に返り討ちにされることを恐れて、対戦を避けたことになっているらしい。
 反論したかったが、俺は黙って試合経験を積んできた。
 
 あれから1年、俺は腕を上げた。しかし、それは堀田も同じことだ。
 リングサイドで見ている俺の目の前で、何人ものレギュラー選手が堀田の挑戦を受け、そのほとんどがリングの上で喘ぎ、腰をひねり、空を蹴り、そしてマットに沈んだ。
 堀田に敗れた選手の中には、40代、50代の選手もいる。
 彼らはそろって四つん這いで大股を開き、ガマン汁の糸をマットに垂らしながら、信じられないという顔で頭を振ってみせるのだ。


「えー、選手の皆さん! 試合場に、お集まり下さい。」
オーナーの吉岡の声が、試合場に鳴り響く。時計を見ると、7時ピッタリだ。
Tシャツと競パン姿の選手達が試合場に集まると、レフェリーが着る白黒の縦縞のポロシャツに赤い競パンを合わせた吉岡が、ゆっくりと口を開いた。

「えぇーこれからですね、69レスリング、公開コンテストマッチを開催致します!」

 吉岡の開会宣言に、パチパチパチと拍手が響く。それを聞いて、吉岡がにっこりと笑う。

「えぇー、皆さんがですね、この道場で、また日頃の生活の中で、鍛え上げ、みがき抜いてきた技の数々をですね、存分にふるって、ここにいる対戦相手と互いに技をみがき合い、また、日常生活などに戻って、これを活かしてもらえればと、思います。」

 昼間何の仕事をしているのか、開会式のオーナーの言葉はいつもこの調子で始まる。

 ・・・いちおう、この試合は「69コンテスト」という扱いになっている。
 相手をイカせることよりも、自分達の技を磨くことを重視しているためで、相手をイカせる技だけでなく、亀頭責めのくすぐり技術や、「立たせ捕り」の拷問技も、ここでは奨励されている。
 しかし、どんなにリングの上で相手をぶんぶん踊らせても、フィニッシュホールドでザーメンを噴いてしまえば問答無用で負けてしまうため、自然とイカセる技が主流になり、ギブアップやKOを奪い合う大味な試合が次第に増えていったのだ。
 

 オーナーが話をする横で、白いケツ割れをはいた2人の選手が、我々の集団の脇に出てぽんぽんと軽く跳ね、グルグルと腰を回している。・・・おそらく、第1試合の選手だろう。
リラックスしようとしているのだろうが、2人のケツ割れの前袋はいびつに大きく膨らんだままになっている。試合を直前に控える身なら、ムリもない。

 「えぇー、試合の時間は、30分です。この30分を使って、いろいろな技を出してください。
  基本的には、口でやることなら何でもOKです。例えば、相手のものをしゃぶったり、舐めたり、亀頭を回したり、どんな技でも結構です。手でサオの根元をつかむのも許されます。でも擦ってはいけません。また、相手の竿に歯を立てることも禁止です。
  そうして、双方の技や、強度、またその技に対する相手の足腰の動き、ダウンの数などを総合的に判断しまして、レフェリーの門馬さんと私が勝敗を決定することとします。

  ただし、試合の途中で一方の選手がのぼりつめてしまい、試合続行不可能になってしまった場合は、試合を中断し、『ギブアップ』または『KO』とさせていただきます。
  分かりましたか?」

  毎回の、オーナーのセリフだ。俺たちは聞き飽きるほど聞いている。
  今までの試合で、試合が30分きっちりかかったのを見たことがない。
  でも、道場開き当時は、そういうことも多くあったらしい。

「お待たせしました。 それでは、試合を始めましょう。
 第1試合、赤コーナー○○さん、青コーナー××さん、リングに上がって下さい。」

 『はい』という声がして、先ほどの2人の選手が勢いよくリングに上がっていく。
 レフェリーの門馬の指示で、2人がケツ割れを下ろす。案の定、ケツ割れの奥からバネのように硬直したサオが跳ね上がる。
 「おいおい、最初からそんなに立ててたら、試合で長くもたんぞ。」
 門馬が苦笑混じりにそういうと、2人は大股でヒザに手を当てて、大きく呼吸を整えてみせる。
 たいていは、そんなことをやっても勃起は簡単に収まらない。

 俺も奴らの試合に刺激されないよう、ロッカールームに引っ込むことにした。
 股間を見ると、俺の男根も競パンの中で斜めに布地を持ち上げている。
 仕事上がりでさっき試合場に来たばかりで、何の刺激も与えていない。全ての選手が同じ条件とは言え、試合開始直後の秒殺KOは避けたい。

 ふと俺が試合場脇の畳を見回すと、あぐらをかいた堀田が両膝に手を当てて、リングの上をじぃっと見すえている。
 (へぇ・・・余裕なのかな、あいつ・・・)
 人のことはどうでもいい。俺は俺で今できるベストを尽くすだけだ。

 俺がロッカールームのカーテンをくぐるのとほぼ同時に、ゴングの音が高らかにカーンと響いて、「はじめぇ!」という門馬の低い声が大きく響きわたった。



俺は今、ロッカールームで一人、スマホの将棋ゲームに興じている。
アタマを使うゲームならそっちに気を取られて大丈夫だろうと思っていたが、向こうが気になってなかなか次の手が進まない。パズル系の速いゲームにすればよかった。

「・・・あっ・・・ああああああああああっ!」
試合場から、一人の男の悲鳴が聞こえてくる。さっきのケツ割れをはいていたフレッシュマンのうちの、どちらかだろう。大したことではない。たかが前座、気にすることもない。

まだ、試合が始まってさほどたってない。やはり、フレッシュマンの試合は展開が早い。
俺だって、気持ちの切り替えに時間がかかる。第三試合なら大丈夫だろうと思ったが、奴らは前座も務められないということか。オーナーに言って、マッチメイクを考えてもらわなければならない。


「・・・ぐわっ・・・あっ、いぐうううううううう!」
若い選手の断末魔のようなでかい声が聞こえて、しばらくしてカンカンカンカンとゴングの音が鳴り響いている。
思わず、試合場の方を振り返る。・・・やはり、リングの中央で、一人の男がもう一人に押さえ込まれたまま、がくがくと痙攣している。
試合時間にして、まだ5分もたっていない。ずいぶん早く決着がついたものだ。

「第2試合、赤コーナー、ユウタ選手! 青コーナー、タカシ選手!」
門馬の太い声に誘われるように、赤ビキニをつけた選手と青ビキニをつけた選手が、すっくと立ち上がっている。

赤ビキニをつけた選手のことは、何となく見たことがある。青ビキニの方はよく知らないが、よく道場で稽古をしている。
両方とも、意志が強そうな強い目をしている。・・・奴らなら、もうちょっとは持たせてくれるだろう。

「・・・よう!」
振り返ると、黒いスポーツバッグを肩にかけたがっちり系の男が入り口から俺に手を振っている。
「あっ、増田さん」
増田は相変わらず坊主頭にキャップをかぶり、赤系のブルゾンとジーンズ姿だ。胸板の厚い固太りの体に、やや大きめのブルゾンとストレートのジーンズがよく似合っている。
現場監督だが、急いで家で着替えてきたのだろう。もう40過ぎだというのに、いつもずいぶん若い出で立ちでこの道場に現れる。

「増田さん、今日試合なんすか」
「おう、第4試合で菅野さんとやるよ。・・・俺久しぶりだからなー、勝てるかなあ。」
増田さんはそう言いつつ、ニコニコ笑いながらスポーツバッグを肩から下ろす。
69レスリングはタオルと競パンかケツ割れぐらいで足りるスポーツだ。あんなスポーツバッグは必要ないはずだが、荷物はそのままで道場に来たのだろう。

「寺田君は何番目なの」「第3試合っす」「へえ、俺、君たちの後なのか。頑張ってくれよ。」
そう言ってる途中に、カーンとゴングが鳴り、ワーッと歓声が起こる。
「おっ、第2試合か。今日事務所から図面がなかなか届かなくてよぉ、間にあわねぇって焦ってたけど、何とかなったな。」
増田は素速く服を脱いで全裸になると、スポーツバッグからエメラルドグリーンのビキニ競パンを取り出す。いつもの増田の、定番コスチュームだ。
相変わらずズンドウでケツがでかい固太り体型だが、だらしないほど太ってはいない。


「今日の相手、堀田君だろ? ・・・いよいよだな。がんばれよ。」
 増田が人の好さそうな小さい目をもっと細くして、パンパンと俺の肩を叩く。

増田は、俺と堀田の因縁をよく知っている。
 俺が堀田に敗れた日、リングサイドで試合を見ていたのだ。
 
実は俺も、増田と堀田の因縁を知っている。
 ・・・ 実は最近、増田は堀田に何度も負けているのだ。

 増田は攻撃力が強く、なみいる選手をサオ責め一本でマットに沈めてきた。
 しかし、最近のフレッシュマンの選手は「立たせ捕り」を仕掛けてくる。
 増田は勃起力が強い。カチカチになった男根を強引にこじられる機会が、最近増えてきた。
 そのせいで、増田自慢の技のキレが、最近の試合では発揮できないことが増えている。

 それでも普通の選手なら、増田は相手を強引にいかせてしまう。
 しかし、堀田は持続力が強い上に、立たせ捕りもうまい。堀田の執拗な立たせ捕りを何度も食い、増田は上手にサオを責められなくなる。
 しつこい立たせ捕りに、増田の元気がなくなってくる。

 ここで、堀田のフィニッシュホールド。精神力のすり切れた増田の太い足が、力なくばたつく。
 試合時間は、きまって13分前後。もしかしたら堀田がコントロールしているのかも知れない。
 断末魔の声とともに、増田が力尽きてザーメンを噴く。

 増田のザーメンは多い。堀田が口を離すと、増田はいつも自分のアゴまでザーメンを飛ばす。
 増田の昇天ショー。観客は興奮して、大きく喝采をする
 ひとり取り残されたリングの上で、増田は筋肉で丸くなった背中を見せながら、一心に自分の噴き上げたものをふき取る。
 おっさんの哀愁が、そんなところににじみ出ているのだ。


試合のサイクルが似ているのか、増田は堀田と試合をすることが多い。
 当初は、増田の方が強かった。増田の強い攻撃力に、何度も堀田が屈してザーメンを噴いた。
しかし、何度も手合わせするうちに、増田が堀田の立たせ捕りの餌食になり始めた。

 『増田さん、そろそろまたリングでやりませんか?』
 堀田は、きまって増田にそう声をかける。
 『いいよ、やろうぜ』
穏やかなようで負けず嫌いの増田。・・・自分を倒せると確信して挑戦してくる堀田の言葉にムッとして、いつも増田は戦いのリングに上がる。
 リング中央で、勢いよく堀田に襲いかかる増田。
 しかし、いつも堀田の立たせ捕りの餌食になってしまう。喝采する観客。
 試合時間13分前後に力尽きて、ザーメンを噴いて沈む増田。

 『増田さん、今日もたっぷり出たっすねぇ! 次回もまた頼みますよ!』
 堀田は増田の胸板をズンと踏みつけ、鷹揚にリングを去っていく。
 かつては高い勝率を誇った増田。しかし、その勝率がこのごろ一気に落ちた。
 増田の豪快なイキっぷりを見に、わざわざやってくるお客さんすら、最近はいると聞く。

 「俺の心が弱ぇんだよ」と、いつも増田は言う。
 来たる勝利を心に念じて、実直に、道場で何度も練習をして帰る。
 道場の閉まる間際、隅っこで、『ハッ、アッ』と声がするときは、たいてい増田の相手だ。
 増田の相手になると、なかなか放してもらえない。
 『増田さん、もうそろそろ・・・あ、がはっ』・・・増田の相手は、なかなか大変だ。
 そんな増田だからこそ、堀田との試合に向かおうとする俺に対する言葉は、やけに熱い。


 いま増田は、ロッカールームで黙々と試合の準備をしている。今日の対戦相手は菅野。
 菅野も攻撃力の強い相手。何度も、増田は菅野としのぎを削ってきた。
 増田は坊主頭の丸顔で真剣に一点を見つめ、何かを考えている。
 今の自分がどれだけ成長したのか、菅野で試すつもりかも知れない。
 俺も今は増田に声をかけず、目前の試合に集中力を高めている。


「テラさん、そろそろ出番だよ。」
ロッカールームのカーテンをくぐり、頭のはげ上がった色黒のオッサン選手が俺に声をかける。

「ああーっ、あ、あっ!」
 ロッカールームを出ると、リングの中央では、フレッシュマンの2人が元気に試合をしている。
試合は、すでに佳境に入っている。青ビキニをはいていた男が、赤ビキニの男を前のめりに攻め込んでいる。
「赤」の男が「青」の男の反りかえった男根に顔を擦りつけて、足先でマットを引っかいている。


「へぇ、あいつ、いつも練習じゃタケシに勝ってるのになぁ・・・」
 増田が、太い腕を組んだまま、頭をかしげてみせる。
 よくあることだ。試合では、何が起こるか分からない。
 むしろ、カモと思ってた相手に善戦されると、いつもは効かない技が効いてしまうものだ。
 今、タケシと呼ばれた「青」の選手は、今日の試合に向けていろいろ作戦を立てていたのだろう。逆に「赤」の選手は、それまで紙一重の試合を繰り広げていた「タケシ」との試合に対しておぼろげな不安感だけを抱えたまま、不用意な状態でリングに上がってしまったに違いない。

「ユウタ!! 踊ってないで攻めろ攻めろ! いっちまうぞ!」
・・・ムリだ。こんなにキイてる状況で相手の竿をくわえて口を塞ぎ、鼻息だけで快感をこらえるのは自殺行為に等しい。

「ユウタ君、ギブアップ? ・・・ギブアップ!」
「ノーノーノー! ・・・あっ」
 ユウタは、必死につっぱってみせる。プライドか、それともただの意地か。

「おーいユウタ! 少しは先輩の意地を見せろ! このままじゃタカシの圧勝だぞ! がんばれ!力を抜けぇっ!」
ギャラリーのオッサンが言った不用意な言葉が、ユウタを刺激してしまったのか。
・・・ここで、ユウタが極端な行動に出た。
「・・・ぐっ・・・く、くそおおおぉぉっ!」

ユウタはタカシを横に押し倒すようにして上に乗り上げた。
「お、おい、ユウタやめろ! 早まるな!」
あわてて怒鳴ったのは、隣に立っている増田だ。
ユウタは増田の言葉を聞き入れることもなく、タカシの男根をがっぽりとくわえ込んだ。
「いいぞおぉぉぉ! がんばれー!」ギャラリーがパチパチと拍手する。

ユウタは今までの劣勢を取り返すように、懸命にタカシの竿をくわえて頭を振っている。
「へぇ、頑張ってるじゃないすか。取り返せるんじゃないすか?」思わず俺が声を上げる。
しかし、増田は右眉をぐいっと上げ、厳しい表情をしている。
「・・・本当に、そう思うか?」

次の瞬間、タカシがユウタの足に手を掛けた。
「いかんっ、ユウタ足を引け!」増田が怒鳴る。
ユウタが若干あわてたように顔を上げ、足を引きかける。
しかし、タカシはそれよりも早く、ユウタの両足をがっちりと脇に抱え込み、ぐいっと自分の方に引き込んだ。

タカシの両脇に抱え込まれたユウタの両足が強く引き込まれる。
「ユウタ、腰を引くんだ!」
・・・遅かった。増田が声を上げるのとほぼ同時に、タカシがユウタの腰を引き込んで、ユウタの突き立った男根をがっちりとタカシの喉に突き立てた。

タカシの、手慣れたようなバイブ攻撃。
「・・・うっ、うぐああああああああっ!!」
ユウタが頭を上に強く跳ね上げる。
「ダウーン!」門馬の低い声が、強く響きわたる。

「・・・あっ、あっ、ああああああああっ!」
タカシの上になったユウタが、ぶんぶんと頭を振る。
体重がかかっている分、ユウタの男根がタカシの喉に強く突き刺さる。
逃げようにも、両足をタカシに引き込まれて逃げることができない。

少しでも逃げようと、ユウタが腰をよじる。しかし、タカシに下から頭を振られて、がくんと腰が落ちる。

「・・・ぐっ、ぐおおおおおおお!」
「お、おい、ユウタ、落ち着け! 息を整えろ!」
赤コーナーから、セコンドを務める男がバンバンとマットを叩き、ユウタに向かって怒鳴る。

「おせえよ・・・」増田がまた右眉を上げ、厳しい目を向ける。
「寺田君、もうこの勝負キマったよ。そろそろ準備しといた方がいいよ」
パンパンと俺の肩を叩き、リングから背を向ける。

「・・・ぐっ、あっ、ああああああっ!」
結果から考えると、そこからユウタはずいぶん粘った。
しかしそれは、ライバルであるタカシのレイプショーをより長く引き立てただけにすぎない。
 

 終末は、ユウタの大きな声とともに訪れた。

「・・・あっいく・・・ああああああああっ!!」
 次の瞬間、タカシがユウタのサオを放す。ユウタのサオがぶるんと跳ね上がり、白い液体が水鉄砲のようにジュジュッと噴き出す。

 カンカンカンカンとゴングが鳴り、「一本!それまでぇぇ!!」という門馬の声が響く。
「あいつ負けちゃったなあ・・・いや、マジでアイツいつもは強いんだよ。」
 増田が苦笑いを浮かべながら呟く。


 敗れたユウタは、まだ横向きに試合体勢のまま、がくん、がくん、と痙攣している。

 自分より弱いはずの相手に、リングの上で敗れてしまった。

 たまたまイイのが入って、のぼりつめてしまったのか。
 それとも本番のギリギリの削り合いに弱く、格下のライバルに競り負けてしまったのか。
 それとも・・・急成長したライバルに、ユウタが追い抜かれてしまったのか。

 今のユウタには、色々な想いが去来しているはずだ。
 ただ一つ確かなことは、ユウタはタカシにリングの上で攻め抜かれ、イッてしまったということだけだ。

「あんなギャラリーのオッサンの言うことなんてよぉ、自分で戦ってねぇんだから聞いちゃダメなんだよ。
 黙って自分のサオでもしごいてろってんだ。・・・そう思わねぇか寺田君?」
 増田が羽織った青いTシャツの腰に両手を当てて、苦々しい顔で俺の方を見る。
 そんなことを言いながら、増田のでかい腰を納めたエメラルドグリーンの競パンは、やや斜め向きながらしっかりテントを張っている。

 ・・・久しぶりに増田に69勝負を挑んで、あの太いサオをくわえてみたくなった。
 以前は、調子の上がらない増田を沈めることができたが、今でも勝てるのだろうか。

「試合時間12分30秒、フィニッシュホールド逆ポンプ固め、放出ノックアウト、勝者・・・タカシィィ!」
 門馬が、また太い声で怒鳴るように勝利を宣し、タカシの右手を挙げてみせる。
 タカシはニコニコ笑って門馬に右手を挙げられながら、自由な左手で横向きのユウタの肩をドンと突いた。
 不意のことで、ユウタはバランスを崩し、マットの上でズンと音を立てて仰向けになった。

 右手を解放されたタカシは、マッスルポーズを作りながら、ユウタの胸板をズンと右足で踏んでみせた。拍手がさらに大きくなる。
 試合の最後にユウタにぶっかけられた「返り汁」が、タカシの胸板や腹を伝って、ドロドロと落ちていく。
 
 ユウタはまだ痙攣が収まらず、若干首を前に起こて自分の竿の先を凝視しながら、ガクンガクンと震えている。
 勝者の栄光と、敗者の屈辱。今日は、前者をタカシが、後者をユウタが浴びることとなった。


「第3試合・・・赤コーナー、堀田選手! 青コーナー、寺田選手! リングへ!」
「うっす!」
オーナー吉岡のコールに、俺と堀田が同時に立ち上がる。

「・・・さあ寺田君、頑張ってこいよ!」
 増田がニコニコ笑いながら、現場監督の分厚い手で俺の背中をドンとぶっ叩いた。

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